「焼身」 | 非暴力平和隊・日本(NPJ) 書籍紹介コーナー 

「焼身」

タイトル:焼身

著者:宮内 勝典 (集英社、2005年7月)



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文学書という形をとっていますので 

或いはフィクションが混じっているのかもしれませんが、

私は 宮内さんご自身の 釈広徳(ティク・クワン・ドック)師の

事跡とお人柄を求めてのベトナム(とカンボジア)への

「心の旅」の記録として読ませていただきました。

 

宮内さんは 9.11の翌年、

昔(1963年)に見た新聞の「焼身」の写真を思い出し、

名前も分からなかったこの僧侶の実像を求めて

約40日 ベトナムを訪れ、この方に縁の場所を探し、

この方を知っている人を探します。

やがて この方の焼身「供養」の場所を尋ねあて、

「供養」に間近に関った方にも出会い、

その中で この「供養」の意義について

宮内さんなりに「理解(?)」されます。


最後に近く こうゆう文章があります。


  「『クアン・ドック師は、どんな人でしたか』

   老僧は十秒ぐらい間をおいてから、さらりと言った。

   『ブッダの生まれ変わりだった』

   『・・・・・・』

   私は あっけにとられていた。


   (中略)


   『かれは日常生活においては、全く平凡な僧にすぎなかった。

   だが危機的な状況において、彼は英雄になったのだ』」


       ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・


   「菩提樹の木陰でブッダの意識に浮上してきた何かは、

    ・・・・わたしの母国にも辿りついた。

    ・・・・南へくだり、生まじめで愚直なだけが取り柄の、

    なんの面白みもない人にとり憑いた。

    X師に宿ったのだ。

    そうゆう意味で、X師よ、

    あなたはたしかにブッダの生まれ変わりとなった。」



もちろん 当時(そして現在)のベトナムの状況について、

この方の修行・布教の経歴について、

『心血の決心』という一週間前に書かれた手記について、

そして クアン・ドック師の「焼身供養をしたいという請願書」が

採択されたことで始まる数日間のとても具体的な経緯についても

宮内さんが受け止められた筋道に沿って 丁寧に記されています。

そして 宮内さんご自身の 心の旅・・・・・「非暴力」についての模索が

通奏低音になっていると思いましたが、

私には これを要領よく報告する力がありません。


宮内さんが「『犀の角のように、ただ独り歩め』というブッダのことば

・・・この一行だけが私にとっての仏典だった」と

書いておられる箇所がありました。

この一句、私が40歳代に 

仏教に惹かれるきっかけとなった言葉でしたので

とても嬉しくなりました。            

合掌    


                           (2005.8.17.  鞍田東)