Unarmed Bodyguards | 非暴力平和隊・日本(NPJ) 書籍紹介コーナー 

Unarmed Bodyguards

タイトル:Unarmed Bodyguards: International Accompaniment for the Protection of Human Rights
著者:Liam Mahony, Luis Enrique Eguren




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NPも設立に際し影響を受け、
NPJのメーリングリストでも何度か話に出てきている
Peace Brigades International(国際平和旅団:以下PBI)
についての本を読んだので、鞍田さんに習って
それの感想を紹介したいと思います。

前半は、PBIがProtective Accompaniment(「護衛的
同行」:以下PA)した団体の紹介、PAがその目的である
暴力の抑止をどのように実践しているかの図を使った説明
などと並行してグアテマラでのPBIプロジェクトの歴史を
細かく説明していました。 後半はエルサルバドル、
スリランカ、ハイチなど、PBIが他に活動した国のプロジェクトの
簡単な紹介と、さらにはPBIの今後の課題について
述べてありました。 国連や国際赤十字・赤三日月などの
行った活動についても紹介していました。


1.PAの本当の意味とは?

本の中には、「活動を継続できたのはまさにPBIのお陰だ」
「PAが無かったら、私たちは生きていないだろう」といった
証言がかなり沢山出てきます。著者がPBIの元ボランティア

と言うことを割り引いても、PBIが多くの活動家から命の恩人
として感謝されているのは事実だと思いました(有名な例で
言えば、その中にはノーベル平和賞受賞者である
リゴベルタ・メンチュさんも含まれています)。


実際には、本の中でも著者が認めている通り、

本当にPBIによるPAが活動家たちの命を守ったか、

というのは(理科の実験などと違って)はっきりと証明できず、
それこそ活動家たちの命を狙っていた人に話を聞かないと
分からないことです。 とはいえ、脅迫の電話で
「外国人がいなくなったらすぐに血祭りに挙げてやる」と
いうことを言っていたり、PBIにもっと頻繁にPAを提供して
欲しいと言っていた活動家がPBIボランティアのいない
ときに殺害されるなど、PAによって活動家の命が救われた
事を間接的に示す状況証拠も数多く挙げられています。


それ以上に僕は、PAによって「護衛されている」事に
加えて、PAによってボランティアが活動家を「勇気付けて
いる」事も大きな意味を持っていると思いました。 
PBIボランティアに当てたメッセージの中で、前述のような
命の恩人だから感謝するという内容と並んで多いのが、
「一緒にいてくれてありがとう」「そばにいてくれてありがとう」
というメッセージです。 厳しい状況の中活動をしている
彼らにとって、外国人が自分たちのそばにいてくれ、
彼らの活動を世界中に発信してくれることはとても
勇気付けられることだろうし、それだけでも非常に
大きな価値をもつんだろうな、と読んでいて感じました。


2.PBIとNeutrality

PBIの活動の基軸となるいろいろな理念の一つに
Neutrality(政治的中立)というものがあります。

しかし、本の中の例からはとてもNeutralな団体には

なりきれていない現状を感じました。「Do no harm」(悪影響を
及ぼさない)という、人道支援活動のバイブルのような本を
書いた人も言っていましたが、「紛争地帯では中立の
立場を取るということは不可能だ」、ということなのでしょうか?


グアテマラでのプロジェクトでは、実際にボランティアが
強制的に出国させられたり、「体制を危うくする共産
主義者に協力する外国人」として、政府から疑惑の
目で見られたり。 政府の立場から言えば、政府に対して
行動する活動家をすぐそばで護衛しているPBIは、
どれだけ政治的中立を宣言していても、確かに
反政府的立場を取っているに見えるんだろうな、
と思いました。 


3. 活動に伴う危険

僕がイギリスでPBIの国内広報ボランティアとして
関わっている時、以前コロンビアに行っていた元ボランティアの
「滞在期間中ほとんど危険を感じたことは無い」
という話を聞いていたため、ボランティアに対して危害が
加えられる可能性はほとんど無いのかな、と考えていました。 
しかし、本の中ではPBIの25年に及ぶ歴史の中で、
今まで死者が出なかったのが本当に不思議と
思えるような例が数多く紹介されています。 


例えば、ボランティアのいるPBIの事務所に
手榴弾が投げ込まれた事件がありました。 
結果的に家の部分的な破壊はあっても
ボランティアに死傷者は出なかったのですが、
事件後の調査であと数センチ投げ込まれた場所が
ずれていたら、(ガスか何かに引火して、ということだと
思いますが)家が半壊するぐらいのダメージになり、
多くの怪我人や死者が出ていた可能性がある、
ということでした。


また、エルサルバドルのボランティアは
兵士に拘束され、近くで拷問が行われるのが聞こえる
ような環境で尋問をされたり、脅迫電話を受けている
活動家のそばで待機して一晩を過ごすことの
精神的負担など、実例に伴ってボランティアの仕事に
伴うタフさが紹介されていました。 現在もそうなのか、
はどうかわかりませんが。


4. 課題その1:国家以外のアクターにどう対処していくか

後半部分に書いてあるように、例えばLTTEやコロンビア
などでの麻薬密売組織のような国家以外の勢力による
暴力をどうやって抑止するか?という問題があると思います。 

基本的にPAはボランティアの出身国やネットワークを
確立している国の政府、ないしアムネスティーなどの
人権団体から紛争国の政府にプレッシャーをかけてもらい、
その政府に必要な対策を迫る(あるいはもし政府が
実行犯だったり、影で糸を引いている時にはそれを
辞めさせる)という形で暴力を抑止しています。 


その理屈から言うと、政府及び政府関連による暴力に
対しては効果があっても、政府と全く関わりのない、
あるいは敵対している組織は果たして止められるのでしょうか? 
例えばLTTEが行う犯罪をスリランカ政府に止めさせる
とかは出来ない相談のように思います。 そのような、
政府と反発している勢力による暴力をどのように
防止していくのかは(特にアフガニスタンとか、
コンゴ民主共和国のような、政府があってないような
国において)これからの課題だと思います。


5. 課題その2?:欧米偏重の現状

以前、5月頃NPJのメーリングリストでも

書いたこととかぶるのですが、
ほとんどのボランティアは欧米出身です。

コロンビアやインド、ブラジルにアルゼンチン、

そして日本などからはいるが、

他は全て欧米諸国の出身との事です
(前にも書きましたが、NPとの非常に大きな違いです)。 
やはり、金銭的に仕方ないのでしょうか?


また、外国人でも「白い肌」の持ち主でないと
PAの効果が薄いという事があるかもしれない、と
本の著者たちは疑問を投げかけていました。 
例えばスリランカにおいて、地域の大国である
インド出身のボランティアより、余り関係ない国の
白人ボランティアの方がPAの効果があるように
見受けられる事があったそうです。 
肌の色の違いで、「あ、こいつは明らかに外国人だ」と
分かりやすい、というのもあるのでしょうが、
「有色人種なら見られても気にしないけど、白人だと厄介だ」
などという人種差別的な観点があるとしたら、
悲しい現象だと思いました。極論すれば日本人はPAやるな、
といっているようなものですから。


以上、長文になりましたが、参考になればと思い
読書後の感想を送信します。

                              中原隆伸